足跡

@vbear00のメモ

小泉(2002)学校・教育・若者

小泉恭子(2002)学校・教育・若者. 音楽教育学, 32(1): 1-10.

 

方法論としてのフィールドワークではなく、ある社会集団に独特な文化や規範を描きだすモノグラフとしてのエスノグラフィーの価値を、音楽教育学においても活かすべきだというレビュー。1970年代のCCCS周辺のサブカルチャー研究、Willis(1977)やHebdige(1978)をもとに、音楽が若者集団の独特な価値観やスタイルと結びついてること、そしてそれがアイデンティティ形成の手段=記号として用いられていることを述べる。アイデンティティという視点は、音楽教育学が見落としがちな点であった。

【学習者にとって音楽がどんな意味をもつのかを理解することは、学習者中心のデザインを説く近年の学習科学/教育工学とも呼応するものである。音楽教育において、そうした潮流がどれくらい受け入れられているのかは、まだよくわからない。】

ハマータウンの野郎ども (ちくま学芸文庫)

ハマータウンの野郎ども (ちくま学芸文庫)

 

 

サブカルチャー―スタイルの意味するもの

サブカルチャー―スタイルの意味するもの

 

 

族の系譜学―ユース・サブカルチャーズの戦後史

族の系譜学―ユース・サブカルチャーズの戦後史

 

 70年代のサブカルチャー研究は、モッズやパンクのように、明かなサブカルチャーを対象にしていた。それらは若者自身が、「自らは~である」と定式化できるスタイルである。【難波(2007)がユース・サブカルチャーとして扱ったのも、そのような若者内部において明確に意識され、名づけられたスタイルである。】しかし、多くの「ふつうの若者」は、~族やモッズといったサブカルチャーの一員ではなく、何らかの名前を付けられることはないが、しかし、音楽の好みをもち、アイデンティティを形成している。サブカルチャー研究に彼らのような存在を含めるには、どうしたら良いのか。これが80年代以降の課題であり、それに対する応答のひとつが、Finnegan(1989)やCohen(1991)のような、英国のある都市を舞台に、人々の音楽実践を記述していったモノグラフである。

隠れた音楽家たち: イングランドの町の音楽作り

隠れた音楽家たち: イングランドの町の音楽作り

 

 

Rock Culture in Liverpool: Popular Music in the Making

Rock Culture in Liverpool: Popular Music in the Making

 

 これらの研究は、エスノグラフィーによって人々の日常生活における音楽の意味を記述する。それは、有名男性ミュージシャンや音楽産業に注目しがちであった従来の研究が取りこぼしていた対象である。Crafts et al. (1993) はその最たるもので、ニューヨーク近辺の男女150人にインタビューした結果、「音楽実践の社会的意味は個人的で、特定の場所や時間と結びついており、一般化が困難」だとしている。

【ここに至ると、もはや「音楽に付与された意味は何か」という問いでは、生産性がなくなるだろう。それらは、ひとりひとり異なるというからである。~族のようなスタイルがない以上、こうなることは当然であった。では、次にいかなる問いを立てれば良いのか。ひとつには、「音楽に対する意味は、いかにして付与されるのか」ということがある。人々は、生活の中で、いかにして音楽に何らかの意味を見出すのだろうか。そのために、どのようにして音楽と付き合っているのだろうか。あるいは、そうした音楽との付き合いを可能にするような、社会環境とはどのようなものだろうか。】

My Music: Explorations of Music in Daily Life (Music/Culture Series)

My Music: Explorations of Music in Daily Life (Music/Culture Series)

 

 例えば、音楽演奏に携わる機会は、ジェンダーによる差が存在する。男子に比べて女子は、ロックパフォーマーになるための社会的制約があり(Bayton 1998)、ロックバンドを形成するための機会も少ないという(Clawson 1999)。あるいは、日本の高校生は、学校と学校外で、語るべきポピュラー音楽の種類を使い分けている(小泉 2007)。学校内/学校外=フォーマル/インフォーマルの音楽学習に関するエスノグラフィーはLucy GreenやChris Richardsらによって先鞭がつけられている。

音楽をまとう若者

音楽をまとう若者

 

 

Music, Gender, Education

Music, Gender, Education

 

 

How Popular Musicians Learn: A Way Ahead for Music Education (Ashgate Popular and Folk Music Series)

How Popular Musicians Learn: A Way Ahead for Music Education (Ashgate Popular and Folk Music Series)

 

 

Teen Spirits: Music And Identity In Media Education (Media, Education and Culture)

Teen Spirits: Music And Identity In Media Education (Media, Education and Culture)

 

 Koizumi(2002)においては、音楽を演奏する若者と、聴取する若者では、パーソナル・ミュージック(個人が好む音楽)とコモン・ミュージック(友人たちと話題にする音楽)の関係が異なるとされている。【音楽を聴取する者の方が明らかに多いなかで、演奏するという実践自体が、一種のサブカルチャーとしての側面をもっているのかもしれない。もちろん、ポピュラー音楽だからこそ聴取者が多いのであって、他の芸術ジャンルであれば、実演することと、消費することは、同一の人々によって担われていることも多い。データはないが、個人的なフィールドワークの印象として合唱はそういうジャンルであるし、あるいは田村(2015)によれば現代演劇もそうであるようだ。】

都市の舞台俳優たち:アーバニズムの下位文化理論の検証に向かって (リベラ・シリーズ11)

都市の舞台俳優たち:アーバニズムの下位文化理論の検証に向かって (リベラ・シリーズ11)