足跡

@vbear00のメモ

OECD教育研究革新センター(2010=2013)『学習の本質』

21世紀型スキルの習得を基軸にすえつつ、数十年の蓄積がある学習科学のレビューと実践への接続を目指した本。学習研究への入門書としても有用。

 

「アセスメントの本質は、生徒が取り組むように求められる活動の認知的な要素を定義することである」(p. 244)が示唆にとんでいる。結局、共同学習などの手法は、伝統的なテストで測られる能力を育成するには、大した効果をもたないかもしれず、21世紀型スキル(適合的熟達化など)を測定しなかれば、手法の価値はわからない。アセスメントについて考えることは、結局、何を学習とみなすのか、そこでもたらされている学習者の変化とは何かについて明確な定義と指標を与えることである。ある意味、学習研究の本質に関わると言ってよいだろう。音楽教育を研究するに当たっても、そこでの学びはいかにして評価されるのかを問うことは、気をつけたい。これまでの芸術教育ではいかなる評価手法が用いられてきたのか、レビューする必要性と意義を感じる。「声楽度」が問題か?「自己調整」か?「楽しさ」か?「アイデンティティ」か?云々。やっぱり子供の音楽教育も見ておいたほうがよい。

 

生涯学習 Lifelong Learing に向かう態度やスキルを形成するために学校が役割を果たすことが主張がされている(p.29)。成人の音楽活動と学校教育の連続性は、それ自体でもっと探求されるべき課題であるのかもしれない。非連続性をテーマにするのは、そのあと段階という感じもする。浅野(2002)「学習動機が生涯学習参加に及ぼす影響とその過程」のような先行研究とも関連づけながら、やっていくのが良いかもしれない。スポーツ学習、スポーツ・マネジメントの領域でも、おそらく蓄積があることだろう。

 

動機(というか動機づけ)は、感情とともに注目されつつある領域であるようだ。この辺は、いかにして研究が可能か、という点からレビューしたい。感情ってどうやって測定するの?

 

追記:2015年3月18日

第4章 教室での学習において動機と感情の果たす役割

動機づけとして作用する、生徒が自己に関して認知していることがら(メタ動機づけ)には、次のような種類がある。

・自己効力感:何かをなすことができるという自分自身の能力に関すること

・成果期待:ある特定の行動が成功に結びつき、他は失敗に結びつくという考え方

・目標志向:学習活動の目的に関するもの

・価値判断:活動がいかに楽しいか、あるいはつまらないか

・原因帰属:何が成功や失敗の原因とみなされるか

動機づけは感情とも密接に関連している。ある現象を生徒がどのように感じるのかによって、学習の質は異なってくる。たとえば、課題に挑戦する喜びを感じるか、課題が課されることの嫌悪を感じるかで、課題からの学習は変化する。学習者が課題に出会った際には、次のような認知プロセスをたどるとされる。

1.課題の具体的特徴とその教育上の文脈を観察する

2.領域特定的な知識と、関連するメタ認知方略を作動させる

3.動機づけに関わる考え方と規律方略(regulation strategies)を作動させる

学習者は、課題が何かを知り、それへの取り組みを考えると同時に、自らが課題にどのような態度で臨むのかを設定する。つまり、学習活動に意味と目的を与えるのである。自己調整学習(self-regulated learing)において、(メタ)動機づけは欠かせない要素であることがわかる。

動機づけに関する包括的理論は確立されていないが、いくつかの「原則」は見出されている。それは次のとおり。

1.生徒は、自分に期待されていることをやりきる十分な能力があると感じているとき、いっそう強く動機づけられる

2.生徒は、行動と達成の間に安定した関連があると認識するとき、学習に対していっそう強く動機づけられる

3.生徒は、教科に価値を見出し、明確な目的意識を持つとき、学習に対していっそう強く動機づけられる

4.生徒は、学習活動に肯定的な感情を経験するとき、学習に対していっそう強く動機づけられる

5.生徒は、否定的な感情を経験するとき、学習から関心をそらす

6.生徒は、感情の強さ、長さ、そしてその表出に影響を与えることができるとき、学習に対する認知的リソースを自在に扱うようになる

7.生徒は、リソースを使いこなし障壁にうまく対処することができるとき、学習にがんばって取り組むようになる

8.生徒は、環境が学習に望ましいと認識するとき、動機規律方略を用い、学習に対していっそう強く動機づけられる

 

学習の本質 -研究の活用から実践へ

学習の本質 -研究の活用から実践へ

 
  • 第1章 21世紀の学習環境の分析と設計
  • 第2章 学習についての理解の歴史的発展
  • 第3章 学習の認知的視点:重要な10の知見
  • 第4章 教室での学習において、動機と感情の果たす役割
  • 第5章 発達と生物学的視点からみた学習
  • 第6章 形成的アセスメント:効果的な学習環境における役割
  • 第7章 共同学習:何がグループワークを機能させるか
  • 第8章 テクノロジーを活用した学習
  • 第9章 調べ学習:その可能性と挑戦
  • 第10章 サービス・ラーニング:学習資源としてのコミュニティ
  • 第11章 家庭と学校のパートナーシップ:子どもの学習と社会化への家族の影響
  • 第12章 イノベーションの実践:空想的モデルから日常的実践へ
  • 第13章 21世紀の学習環境の方向性

 

教育工学における学習評価 (教育工学選書)

教育工学における学習評価 (教育工学選書)

 

 

動機づけ研究の最前線

動機づけ研究の最前線